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ブレーキに関する質問
ブレーキ鳴きの問題はブレーキトラブルの中でも解消するのが非常に難しいトラブルの1つです。ブレーキ鳴きそのものは制動機能とは基本的には関係なく、ブレーキディスクとブレーキパッドの摩擦現象が引き金となり、
「共振」が発生する事によりブレーキ鳴きが発生します。共振の要素はあまりに多すぎて、ブレーキ鳴きの原因を完全に特定するのは車両メーカーの開発でも困難な課題とされています。
ブレーキ鳴きが発生しても制動力(効力)が低下したりする事はまずありません。鳴き止めグリスを使ったりする事で改善される場合もありますが、発生元がブレーキパッドのバックプレートとキャリパーピストンでは無い場合、
このグリスは効果を発揮しません。対策方法の一つとして鳴き止めグリスがあります。ブレーキパーツの組み合わせによって発生してしまったブレーキ鳴きはある程度諦める事が必要かもしれません。
アウターの板厚を厚くする目的はブレーキの熱容量を上げる事が一番の目的です。レースやサーキット走行、場合によってはワインディングなどでハードなブレーキングを繰り返す事でブレーキシステムが加熱し、
ブレーキの効きが甘くなったり、ブレーキレバーフィーリングが安定しなくなったりします。これらは熱容量不足が起因している事がほとんどです。このような症状が発生した場合はブレーキディスクの板厚を厚くし、
熱容量を上げる事で対策します。同時にキャリパーピストンの突出量が少なくなる事で、カッチリした上質なレバーフィーリングを得られます。
板厚を厚くするときの注意はキャリパーがその板厚を許容しているか。という事です。キャリパーにはそもそも想定されれている板厚があります。これを大幅に超える板厚はキャリパー本体にディスクが接触してしまう事があります。
板厚を変更する時はこの点に注意して、ぜひ板厚変更を試してみてください。
スリットはブレーキパッド表面の清掃効果を高める為に施しています。これにより効力を安定させる効果があります。効果が体感出来る領域は、レースやサーキット走行などブレーキ負荷の高い所で発揮される為、
街乗りメインの場合は、見た目で選んで間違いありません。ホール&スリットのデザイン性が多くのライダーに受け入れられています。
ブレーキディスクを変えると「効き方(フィーリング)」が変わります。
ブレーキの効きに影響する要素は沢山ありますが、パッドが接触するアウター部分の素材や形状、厚みが変化をもたらす大きな要素となります。インナーのデザインやアウターとインナーの締結方法も影響します。
これらの要素が積み重なってブレーキの「効き方」に変化をもたらします。ブレーキフィーリングの感じ方は人によって千差万別です。「今までより効きが良くなった」と感じる人もいれば、「コントロールし易くなった」という人もいます。ブレーキディスク交換の効果は殆どの人に体感していただけると思います。
ホイールに取り付ける部分インナーと、パッドが接触する部分アウターを分割し、特殊なピンによって締結れている2ピース構造のディスクをフローティングディスクと呼びます。
英語の「Float」は「浮く」という意味がありますが、ココではピンをカシメによって拘束し、固定されている状態でもフローティングディスクと呼びます。レース用のカチャカチャ動くタイプだけがフローティングディスクではありません。
ブレーキディスクはブレーキへの負荷が高いシチュエーション(サーキット走行やレースなど)では、公道走行の2倍以上の温度まで上昇することがあります。この時ブレーキパッドとの摩擦で作用しているブレーキディスクに熱膨張が発生します。この膨張をフローティングピン付近のクリアランスによって吸収し、ブレーキディスクが冷えていく際に極力熱ひずみが発生しない様にする為にフローティングディスクがあります。
ソリッドディスクはインナーとアウターが分かれていない為、パッドが接触する部分がホイールに直接取付られている状態になります。ソリッドディスクをブレーキ負荷が高いシチュエーションで使用した場合、同じように熱膨張が発生します。この時、取り付け部分がホイールに固定されており、熱膨張による寸法変化を吸収出来る部分が無い為、熱ひずみが発生し易くなります。一度ひずんでしまったディスクは再使用できません
この様な性能差がある為、昨今スポーツバイクにはほとんどノーマルでフローティングディスクが採用されています。
フルフローティングはアウターの熱膨張を吸収する為のクリアランス部分をフローティングピンによって締結する際に、テンションをかけて拘束する部材(ウェーブワッシャー)が無く、常にクリアランス分だけ可動出来る構造になっています。これにより熱膨張の吸収がよりスムーズになり、耐ひずみ性能が高くなります。またストレスなく可動出来る状態なので引きずりに対しても有効です。しかし可動できるという事はブレーキをかける度にインナー、アウター、ピンがぶつかって叩かれます。これによりインナーとピンの摩耗が早くなります。
セミフローティングはフローティングピンを締結する際にテンションがかかる部材(ウェーブワッシャー)によって拘束力を高めています。フローティングディスクとしての性能はフルフローティングに劣りますが、その分インナーやピンが摩耗しにくくなります。熱膨張がブレーキトラブルになるほどのシチュエーションは街乗りではほとんどありません。街乗りがメインのユーザーにはセミフローティングの方がメリットがあります。
出来るだけパッドも一緒に交換してください。
ディスクとパッドの関係は切っても切り離す事はできません。お互いが摩耗しながら作用する部品なので馴染みはとても重要です。ディスクを新品に替えた時に、数千、数万キロ走行した中古パッド使用すると、中古パッドはそれまで使っていたディスクの減り方に馴染んだ摩耗をしている為、新品ディスクの当たりが出にくくなります。
中古パッドを採用した場合でも使用距離や時間を伸ばすことで当たりが付きやがて効く様になりますが、馴染み方が均等で無い事で、使用し続けた先でブレーキトラブルに繋がる可能性が高くなります。
新品ディスクのアウターは仕上げ研磨された高精度な状態です。新品パッドと一緒に使い始める事で良く馴染み、先々ブレーキトラブルが出にくい組み合わせになります。
1枚のパッドに上下左右の辺があります。このうち1辺、ディスク回転方向の入り部分の面取りはわずかではありますがブレーキ鳴きに有効であると考えられています。
それ以外の3辺で有効な面取りもあります。それはディスクの摩耗が進み、ディスクがアルファベットHの様な断面に摩耗している時にパッドを交換した場合、外径方向に対して上下の面取りは有効であり、これによりパッドの当たりが出やすくなりパッドの変摩耗も防げます。
最後に外径方向の下側の面取りはホイール脱着を多少スムーズになる効果もあります。耐久レース用パッドは初めから面取り加工されているモノもあります。
いずれにせよ極端な面取りはディスクとパッドの接触面積を減らす事になりますので、ディスクの摩耗状態やブレーキ回りの状態に合わせた面取りが必要となります。
ココでは現代の技術で作られたステンレス製ディスクとシンタードパッドの場合。と限定してお話します。ブレーキディスクメーカーとしてはサンドペーパーで磨くはNGです。
そもそも「ペーパーで磨くと良い。」というのはどこからきたのでしょうか?恐らくそれはそれまで使用していたパッドの被膜をペーパーで磨いて落とす事で、新しいパッドの性能が発揮される。と言うところからでは無いかと思われます。
確かにディスクの表面には「シンタード被膜」といわれる被膜が定着します。これは色んな材料を混ぜ合わせて焼き固められたブレーキパッドの成分が、摩擦による高温下でディスク表面に定着し、ディスクへの攻撃性を低くしたり、摩擦をコントロールしたりしています。
シンタードパッドにとって重要なシンタード被膜ですが、これはペーパーで磨かないと落とせないモノでしょうか?そんなことはありません。新しいパッドに交換した際、きちんと慣らしを行う事で新しいパッド本来の性能が発揮されます。
ディスクとパッドは摩擦によって互いを消耗させながら作用しています。慣らしに多少時間がかかる事はありますが、新しいパッドが取付られても同じ様に機能します。
ディスクとパッドの馴染みはQ5でも説明しましたがとても重要です。その馴染みは人間の手によって磨かれる様な精度では再現できません。